Webデザイナーとコーダーのどっちを目指すか迷っているなら、学習の時間はコーディングに張ってください。職業としてどちらが上か、という話ではありません。限られた学習期間を2つに割ると、どちらも案件で求められる水準に届く前に時間が尽きやすい。さらに制作会社を通る仕事では、発注が「デザイン」「コーディング」と工程ごとに分かれやすく、両方そこそこの人は、それぞれの工程の専門の人と比べられます。
デザインとコーディングでは、評価のされ方も違います。デザインにも専門の物差しはありますが、発注者が発注前にそれを見分けるのは難しく、実績の少ないうちは比較が価格に寄りがちです。コーディングには、デザインとのずれ、表示崩れ、表示速度、修正のしやすさ、納期といった確かめられる物差しがあります。磨いた分だけ次の案件で使える技術として残り、公開後の改善や解析にも伸ばせます。
この記事は、スクールを卒業してポートフォリオもあるのに案件が取れない、という方に向けて書いています。職種の仕事内容や年収の比較はしません。扱うのは次の4つです。
両方を学ぶこと自体が悪いのではありません。問題は、決まった期間の中で両方を学ぶと、どちらも基礎で止まりやすいことです。
時間で考えると分かりやすくなります。当校のカリキュラムは週20時間を想定した6ヶ月で(よくある質問)、合計の目安はおよそ500時間です。デザインを作る学習は含めず、その時間をコーディングと、公開・運用までの実務の学習に充てています。内訳は、HTML・CSSでの基礎(STEP1・1.5ヶ月)、JavaScriptで動きのあるサイトを作る段階(STEP2・1ヶ月)、ピクセルパーフェクト・保守性・納品スピード(STEP3・1.5ヶ月)、複雑な動き(STEP4・1.5ヶ月)、納期つきのテスト案件(STEP5・0.5ヶ月)です(カリキュラム内容)。
同じ500時間の半分をデザインに回したとします。コーディングに残るのは約250時間です。学習時間が月数に比例すると仮定して当校の配分に当てはめると、STEP1〜2の2.5ヶ月分(目安で約210時間)を終え、STEP3に入ってまもなく時間が尽きる計算です。当校のカリキュラムで「実務を意識した学習」が始まるのは、そのSTEP3からです。
当校のカリキュラムページには、こう書いています。「多くのことを学ぶとなると、どうしても期間内に収まらず、すべてが浅いスキルになってしまいます。それを避けるために我々は必要なスキルのみを深く極めることを方針としています」。同じページでは、多くのスクールで学べるのはSTEP2の制作技術までで、商品レベルのサイトにはそれ以上が要る、とも書いています。デザインも含めて学ぶ場合は、その分だけコーディングの時間が削られます。
STEP2の段階で止まると、ポートフォリオは作れても、案件で求められる次の5点が抜けやすくなります。下の表は当校の運営上の見立てで、すべての人に当てはまるわけではありません。
| 発注で見られる点 | 両方を短期間で学んだ場合に起きやすいこと | コーディングに時間を張った場合 |
|---|---|---|
| デザインの再現 | 自分でデザインしたサイトしか組んだことがなく、他人のカンプ(完成イメージ図)どおりに組めるかを示せない | 他人が作ったデザインを、余白や文字の大きさまでずれなく組んだ実例を出せる |
| 修正への対応 | 修正依頼が来ると、どこを直せばよいか探すのに時間がかかる。直した箇所の横が崩れる | あとから直す前提でコードを書いているので、修正の範囲と時間を見積もれる |
| 納期 | 1本に何時間かかるか、自分の作業速度が分からない | ページ数と動きの量から、何日で納められるかを答えられる |
| 動き | 既製の動きを貼り付けるところまで。カンプにない動きの相談に答えられない | JavaScriptで、スクロールに合わせた演出などを自分で組める |
| 公開と公開後 | サーバーへのアップや、公開後の更新を経験していない | サーバーへの公開まで自分で行い、公開後の修正や改善の相談も受けられる |
表の右列は、当校のカリキュラムでいえばSTEP3以降(ピクセルパーフェクト・保守性・納品スピード・複雑な動き・納期つきのテスト案件)と、習得スキルの「サーバー」「運用・コミュニケーション」にあたる内容です。制作会社の検品で見られる水準との差はスクール課題と制作会社パートナーの水準の違いで比べているので、ここでは時間配分との関係に絞ります。中でも納期は、組んだ本数が少ないうちは読み違えやすい項目です。受講生のあいりさんは、自身のnoteで、納期指定の課題に不合格だった経験を書いています。「指定された納期に間に合わせることができず、悔しさと情けなさで、涙が止まりませんでした」。最大の原因は「元サイトの構成に対する事前の分析と理解」が足りず、スマホ表示にした途端にレイアウトが崩れて、その修正に想定以上の時間を取られたことだったと振り返り、「「今の自分の力量」と、「修正にどれだけの時間がかかるか」を全く客観視できていなかった」と書いています(あいりさんのnote)。その後は自分の作業スピードを測り、余裕を持たせたスケジュールを組むようになったそうです。作業速度と修正時間の見積もりは、組んで、測って、外した経験から身についていきます。
あいりさんは、当校に入る前に別のスクールで基礎を学んでいます。模写を終えてクラウドソーシングに応募しようとしたときのことを、「募集要項は知らないワードばかり。全く応募できず、「こんなスキルじゃ全然通用しない…」とかなり自信を無くしました」と書いています(あいりさんの初投稿のnote)。学んだ内容が基礎で止まっていれば、何を学んだかにかかわらず同じ壁に当たります。分かれ目は、学んだ種類の数ではなく到達した深さです。
制作会社や広告代理店を通る仕事では、デザインとコーディングが別々に発注されやすくなります。お店などから直接受ける仕事では両方を1人に頼まれることもありますが、そこでも「両方を少しずつ」できることが有利に働く場面は限られます。
制作会社や広告代理店が受けた案件では、デザイナーがデザインを作り、コーダーがそれを組み、ディレクターが全体を進めます。そこから個人に外注されるのは、その中の1工程であることが多く、典型は「デザイン済みのカンプがあるので、コーディングだけお願いしたい」という依頼です。受注ルートごとの仕事の範囲の違いは3つの受注ルートの比較にまとめました。分業の比率を示す公的な統計は、確認した範囲では見つかっていません。ここまでは当校の運営上の見立てで、以下は受講生の記録から確かめられる範囲の話です。
あいりさんは、今の制作姿勢をこう書いています。「デザイナーさんの意図を汲み取り、「なぜこの余白なのか」「なぜこの動きなのか」を考えながら、1pxのズレも許さない実装を大切にしています」(あいりさんのnote)。デザインはデザイナーが作り、コーダーはその意図を読んで形にする、という分担が前提になった書き方です。
受講生の皆藤翔太さんは、当校に入る前に独学で、納期3日・報酬1万円のコーディング案件を受けていました(経緯は独学で受注した人が行き詰まった実例で紹介しています)。その後参加した勉強会で卒業生が受けたコーディング案件の話を聞き、記事の見出しに「同じコーディング案件でも、報酬は10倍違った」と書いています。案件の規模や作業範囲が違うので単純には比べられない、という断りも本人が添えています(皆藤さんのnote)。コーディングだけで発注される案件があり、その中でも報酬に幅があることは、この記録から読み取れます。
工程ごとの発注では、デザインの依頼はデザイン専業の人と、コーディングの依頼はコーディング専業の人と比べられます。発注者が見るのは、その工程でどれだけの仕事をしてくれるかです。両方を学んだ時間の分、それぞれの工程で専業の人より浅ければ、どちらの依頼でも後ろに回ります。
デザインから公開までを1人で引き受ける案件もあります。小さなお店のサイトなどです。ただ、それを1人で受けて品質を保ちやすいのは、どちらかを深めてからもう一方を足した人です。受講生の声に載っているY.Eさん(42歳)は、フリーランスでデザイナーをしてきたうえで、コーディングを学びに来ました。目標は「デザイナーもできて、コーディングもできて、案件も取れるようなハイブリット」です。Y.Eさんの場合、両方を持つ形は、デザインを仕事にしたうえでコーディングを足す順番で目指されています。
コーダーとフロントエンドエンジニアのように、コーディングの中での職種の違いはコーダーとフロントエンドエンジニアの違いで比べています。
デザインが価格競争になりやすいのは、デザインの仕事が軽いからではありません。情報の整理や使いやすさといった専門の物差しはあっても、発注者がそれを発注前に見分けるのは難しく、最後は好みで判断されやすいからです。
専門家でない発注者が、公募で集まった提案を価格・評価・実績件数で並べがちな構造はクラウドソーシングで案件が取れない構造的理由で書きました。ここでは、その比べ方がデザインとコーディングで違って出る点に絞ります。同じ依頼に、未経験に近い候補者が3人応募したとします。3人のデザイン案は、どれも発注者の好み次第で「いい」とも「違う」とも言えます。腕の差がはっきり見えないとき、発注者が比べやすいのは金額と実績の数です。デザイナーの側に落ち度はありません。比べ方の構造がそうなっています。実績を積み、提案の筋道を言葉で示せるデザイナーは、価格以外で選ばれていきます。価格に寄りやすいのは、実績がまだ少ない入口の段階です。
学習中の上達の測りやすさにも同じ差があることは、WebデザインとWeb制作の違いで書きました。本記事で扱うのは、その差が発注のときの比べられ方にも出る点です。
コーディングの品質は、発注者がデザインに詳しくなくても確かめられる形で示せます。実績が少ないうちでも、価格以外の比べ方を発注者に渡せるということです。
| 物差し | ポートフォリオや提案で見せる方法 |
|---|---|
| デザインとのずれ | 元のカンプと完成画面を重ねた比較画像を載せる(ピクセルパーフェクト) |
| 表示崩れ | スマホ・タブレット・PCの幅ごとの表示を並べ、確認した端末とブラウザを書く |
| 表示速度 | Googleの計測ツールPageSpeed Insightsの結果を、公開した作品のURLと一緒に載せる |
| 修正のしやすさ | クラス名の付け方やファイル分けの方針を、作品の説明に1〜2行で書く |
| 納期 | 作品ごとに、ページ数と制作にかかった日数を書く |
表示速度の整え方は卒業制作を作り替える5ステップのステップ4に、表示崩れの原因の調べ方はCSSのレイアウトが崩れる原因に書いています。
提案文の自己紹介も、この物差しで書き直せます。両方を学んだ人ほど、最初の1行に「デザインもコーディングもできます」と書きがちです。
書き直す前
Webデザインとコーディングの両方を学びました。デザインから実装まで対応できます。
書き直した後
いただいたデザインを、スマホ・PCの両方でデザインどおりに組みます。下記の作品では、カンプとの比較画像と表示速度の計測結果を載せています。5ページ程度のサイトであれば、デザインを受け取ってから7日で納品できます。
後者は、発注者が確かめられることだけを書いています。日数は例なので、自分の実測に置き換えてください。提案文全体の組み立ては提案文の構成7要素にまとめています。
ここで言う資産は、一度身につけたものが次の案件でも使え、積み重なるほど速く・高く仕事ができる状態のことです。コーディングには、そうした積み上がり方をするものが3つあります。
1つ目は、組み方の型です。ヘッダー、カード一覧、問い合わせフォーム、スクロールに合わせた動き。一度きちんと組んだ部品は、次の案件で土台として使えます。同じ5ページのサイトでも、2本目は1本目より早く組みやすくなります。
2つ目は、見積もりの精度です。何本も組むうちに、「このデザインなら何日」「この修正なら何時間」が分かるようになります。先に紹介したあいりさんは、納期の失敗を経て、「この「絶対に納期を割らないための自己管理力」は、今の私の制作において揺るがない軸になっています」と書いています。納期を守れる見積もりは、継続の依頼につながる力です。
3つ目は、公開後の仕事への広がりです。コーディングができると、表示速度の改善、サイトの修正、アクセス解析をもとにした改善まで、自分の手で実装できます。皆藤さんはWeb解析に取り組む理由を書いたnoteで、「私はコーディングを経験してきたため、問題を見つけるだけでなく、改善案を実際のサイトへ反映するところまで対応できます」と述べています(皆藤さんのnote)。本人はWeb解析の実績はこれから作る段階だと断ったうえで、計測から改善の実装までを一貫して行えることを、これからの強みにしようとしています。深めたコーディングが、仕事の範囲を広げる土台になっている例です。
実装力に何を掛け合わせると仕事が残りやすいか(動きの設計・上流工程の言語化・Web解析)は、これからのWeb制作で生き残るスキルの掛け合わせで書いています。AIがコーディングのどこまでを担うかも、同じ記事にまとめました。掛け合わせはどれも、自分で書ける実装力が土台です。学習の段階でコーディングに時間を張る理由は、ここにもあります。
当校のカリキュラムページの最後には、「ひとつのことを“極める”ことで卒業後も別スキルの習得や案件獲得などをできる力が身に付きます」とあります。別のスキルを足すのは1つを極めたあと、という順番がこの一文に表れています。デザインを足したくなった場合も同じです。
コーディングに絞っても、デザインと無縁にはなりません。必要なのは、デザインを一から作る力ではなく、他人のデザインを読み取り、デザイナーと確かめ合う力です。
| 区分 | 具体的な中身 |
|---|---|
| 学習中から必要 | カンプから余白・文字の大きさ・色の値を正しく拾う。要素の揃え方や、見出しと本文の大きさの差(情報の優先順位)を読み取る。デザインツールで値を確認する操作 |
| 実務で必要 | カンプに描かれていない部分(スマホでの並び、ボタンに触れたときの変化、動き)を、デザインの意図に合わせて補う。迷ったらデザイナーに質問し、確認した内容を残す |
| 後回しでよい | 配色やレイアウトをゼロから決めること、ロゴやブランドの設計、デザイン案の提案 |
あいりさんの「なぜこの余白なのか」「なぜこの動きなのか」を考える、という姿勢は、この表の上の2行にあたります。デザインの意図を読めるコーダーは、カンプに描かれていない部分で迷ったときに、デザイナーが選びそうな形を選べます。質問するときも「AとBのどちらにしますか」と選択肢を出せます。
当校でも、受講中にデザインツールを動かす作業はあります(よくある質問)。デザインの知識を学ぶ範囲は、カンプを読んで正確に組むために必要な分です。作る側のデザインを本格的に学びたくなったら、コーディングで仕事を受けられるようになってから足しても遅くありません。
両方を学んで卒業し、案件が取れていない場合も、学んだ時間は無駄になりません。次の4つの手順で、コーディングの側に重心を移してください。
手順2で使ったデザインの読み方は、前章の表の上2行そのものです。デザインを学んだ経験は、ここで生きます。カンプの意図を読む速さは、デザインを学んだことのない人より早い場合があります。
ポートフォリオの作品そのものを作り替える手順は卒業制作を作り替える5ステップに、作ったあと発注者に届ける方法は案件が来ないポートフォリオの3つのパターンに書いています。提案を出してから受注までの現実的な数(最初の受注率は1〜2割以下)は副業の始め方5ステップに、続けるかやめるかの線引きは撤退ラインにまとめています。
AddedPallasは、Web制作のうちコーディングに特化したスクールです。カリキュラムの習得スキルの一覧はHTMLとCSSに始まり、サーバーや運用・コミュニケーション、実務スキルまで並びますが、デザインを作る技術の項目はありません。カリキュラムページが挙げる理由は、最初の章で引いた「すべてが浅いスキルになってしまう」ことを避けるためです。
その分、STEP3以降の3.5ヶ月を、基礎より先の段階に充てています。最後のSTEP5は、納期を決めて難易度の高いサイトを1人で作るテスト案件です。このテストに合格し、さらに当社CTOとの面接に合格した方のみ、業務委託契約を結んで当社の実務案件に携われる制度があります。この業務委託制度は保証ではありません。
デザインを仕事にしたい気持ちがはっきりしている方には、当校は合いません。デザインを専門に学べる学習先を選んでください。デザインとコーディングのどちらを軸にするかまだ迷っている方は、無料カウンセリングで、これまで学んだ内容と手持ちの作品の状況を伝えてください。カウンセリングでは、フリーランスを経験したエンジニアが、キャリアや案件獲得、学習の手法の相談に答えています。
この記事で書いたことを4行に絞ると、次のとおりです。
すでに両方を学んだ方は、手持ちの作品をコーディングの物差しで採点するところから始めてください。どこが足りないのか1人で判断しにくい場合は、無料カウンセリングで相談してください。
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